【研究室だより】カシスはGLP-1を増やす?
最近、2型糖尿病の治療薬である「マンジャロ(一般名チルゼパチド)」を美容・痩身目的で使用する事への注意喚起がニュースでも流れましたね。血糖降下作用を持つ医薬品は重篤な副作用(最悪死に至る)の恐れがあるため、必ず医師の診断のうえ、処方箋が必要なもの、と理解していましたが、自由診療で使われているようです。
マンジャロはGIP-1/GLP-1受容体作動薬です(GIP-1: グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド、GLP-1: グルカゴン様ペプチド-1)。このメカニズムについて簡単に説明しますね。体内のGLP-1やGIP-1は食物を摂取した時に小腸から分泌されるホルモンで、総称してインクレチンと呼ばれます。インクレチンの受容体が膵臓にありまして、受容体と結合するとインスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。これらのホルモンは血糖値に依存してインスリン分泌を促すため、低血糖が起こりにくいというメリットがあります。そのほか、血糖値を下げる要因として食欲抑制作用などもあります。この作用が現在、非常に注目されているところです。
そういえば小職、10年ほど前に血糖値を下げる食品素材探索でインクレチン分解酵素であるDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)の阻害をターゲットにしてスクリーニングを行ってました。経口糖尿病薬でこのメカニズムのお薬があります。インクレチンは食物摂取時に分泌されますが、体内DPP-4によって結構早く分解され(半減期は2分程度とか)活性を失います。そこでDPP-4を阻害してやると体内のGLP-1、GIP-1分解が抑制され長持ちするため、結果的にインスリン分泌量を増やし血糖値が下がるんですね。この研究ではバラのエキスに強いDPP-4阻害活性を見つけ、その成分まで同定してます。その時は血糖値ばかりに集中していたので、残念ながら肥満への活用が思いつかなかったですね・・・。
マンジャロのニュースから、過去の研究を思い出しまして、当社独自原料のステロンパワーミックス®に配合しているカシス等の成分でGLP-1の分泌を促すものが無いかな?と文献検索してみました。研究者的には報告が無い方が「よし!やったらあ!!」となりますのでワクワクしますが、複数の論文がヒットしてしまいました・・・。ちょっと残念なのですが、一部ご紹介します。
The Anthocyanin Delphinidin 3-Rutinoside Stimulates Glucagon-Like Peptide-1 Secretion in Murine GLUTag Cell Line via the Ca2+/Calmodulin-Dependent Kinase II Pathway.
(アントシアニンであるデルフィニジン-3-ルチノシドは、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII経路を介して、マウスGLUTag細胞株におけるグルカゴン様ペプチド-1の分泌を促進する。) / PLoS ONE. 10, e0126157, 2015
小腸内分泌L細胞モデルGLUTag細胞を用いて、アントシアニンがGLP-1分泌を促すか検討した論文です。カシスアントシアニンに多く含まれるデルフィニジン3-ルチノシド(D3R)が、GLP-1分泌を誘導することを明らかにしています。
Delphinidin 3-Rutinoside-rich Blackcurrant Extract Ameliorates Glucose Tolerance by Increasing the Release of Glucagon-Like Peptide-1 Secretion
(デルフィニジン-3-ルチノシドを豊富に含むカシスエキスは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促進することで耐糖能を改善する) / Food Sci Nutr. 5, 929-933, 2017
この研究では実験動物の胃内へカシスエキスを投与して、その後グルコース液を腹腔内投与して検討しています。結果、対照と比較して血清中のGLP-1が有意に上昇し、インスリン量が有意に増加し、血糖値は有意に低下しています。また、D3Rの分解産物ではなく、D3RそのものがGLP-1分泌に重要であることを示唆しています。
Blackcurrant Extract Ameliorates Hyperglycemia in Type 2 Diabetic Mice in Association with Increased Basal Secretion of Glucagon-Like Peptide-1 and Activation of AMP-Activated Protein Kinase.
(カシス抽出物は、グルカゴン様ペプチド-1の基礎分泌の増大およびAMP活性化プロテインキナーゼの活性化を伴い、2型糖尿病マウスにおける高血糖を改善する。) / J Nutr Sci Vitaminol. 65, 258-264, 2018
この研究では2型糖尿病モデルマウスKKAyにカシスエキスを経口投与して、血中GLP-1濃度の上昇、プロホルモン転換酵素PC1/3(インスリンやGLP-1の前駆体を切断し、活性型にする酵素)の発現増大、血糖値低下と耐糖能改善することを示しています。加えて、D3Rが豊富なカシスエキスが糖尿病予防に役立ち、糖尿病治療薬投与量を減らす可能性を示唆しています。(余談ですが、KKAyマウスは小職も実験で使用したことがあるのですが、気性が荒くケージから取り出すときに手を噛まれたことを思い出しました・・・)
また、カシスエキスについての記載はありませんが、GIP-1/GLP-1受容体作動薬と腸から分泌されるGLP-1の比較から肥満治療に対する知見まで書かれた総説があります。分かりやすくてオススメです。
Comparing the anorexigenic effects and mechanisms of gut-derived GLP-1 and its receptor agonists: insights into incretin-based therapies for obesity.
(腸管由来GLP-1とその受容体作動薬の食欲抑制作用および作用機序の比較:肥満に対するインクレチン関連療法への知見) Diabetol Int. 16(3), 448-456, 2025
当社独自原料のステロンパワーミックス®はカシスエキスを配合しており、テストステロンの分泌を促すだけでなく、高血糖や肥満にもお役に立てる可能性が出てきたのは嬉しい限りです。調べれば調べるほど検証してみたい実験がどんどん増えるのですが、研究予算には限りがありまして・・・。なので、しっかりとどのような研究・実験を行うか精査しながら、お悩みのお客様にお役に立てる情報を得るべく研究を進めて参ります。

